初めに
2025年10月某日。気の置けない友人達と集まって夕食を共にし、映画館へ足を運びました。前作Mr.ノーバディ(原題Nobody、2021年制作)から四年。続編映画であるMr.ノーバディ2(原題Nobody 2、2025年制作)が公開されたので、期待を込めて観に行きました。予告動画を観た限りは、こじんまりとした内容になりそうな予感が。今回は映画を最大限に楽しむ為、予告動画以上の情報は集めないようにしました。
監督はインドネシア人のティモ・ジャヤント。私は聞いた事が無い人ですが、前作の監督とは違う人です。前作の監督はイリヤ・ナイシュラー。同氏が監督した映画ハードコア(原題Hardcore Henry、2015年制作)はFPSの様な一人称視点が斬新なアクション映画で、お勧めです。脚本は前作のデレク・コルスタッドが続投。そのせいか、監督が違えど映画の作りは全体的に前作を踏襲しており、違和感無く安心して観られました。
ところで、とんでもなく映画の料金が跳ね上がっていますね。今は一回観るだけで2,000円以上もします。以前は夜の割引を利用すれば、1,000円ぐらいで観られた筈です。物価高とか原材料費高騰とか尤もらしい言い訳をしていますが、私は便乗値上げが多いと思います。何故なら業種を問わず、一部では価格据え置きをしている会社が、少なからず存在しているからです。消費者に価格転嫁を求める前に、無駄な包装・無駄な宣伝等を止めればいいのに。自分で頭を使って経費削減の努力をせず、安易に価格上昇を選択している様に見えます。
まだ上映中につき、内容を知りたくない人は見ないで下さい。私は記憶力が良い方ではないので、解説する内容に間違いがあったらすいません。海外では既に円盤が発売されており、相変わらず日本に入って来るのが遅いですね。
粗筋
冒頭から地下室の様な場所での血生臭い戦いから始まり、ハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク役)が依然として暴力の世界で生きているのが分かります。その後、前作と同じく月曜から金曜日まで、マンセル家の一週間の流れから始まります。前作と違うのは、ハッチが仕事に追われて家族との時間が全く取れておらず、家族に不和が広がっている雰囲気があるところ。家族は前作で既にハッチが凡人ではないと悟っているので、彼の人格に対する非難ではなく、もっと家族団欒の時間を作れと言う無言の圧力でしょうか。ハッチだけ仕事で帰りが遅く、食事は温め直した物を一人で食べたり、妻とは寝所を別にしたり。ちょっとハッチに同情したくなる場面です。
前作でハッチがオブシャクを燃やした事で、膨大な借金を背負っている(3,000万ドル)と言う説明もあり、初めから不穏な空気が流れています。オブシャクはロシアンマフィアの年金ですが、それが何故ハッチの借金となるのかよく分かりません。その辺りの説明が不足していました。理容師( コリン・サーモン役)は次の任務を提示しますが、仕事に疲れ果てた様子のハッチは、一度休暇を取ると主張して憚らない。理容師は「お前は何処に行っても争い事は避けられない。それはお前の本能だ。」みたいな警告を発します。この時点で、ハッチには安息が約束されていない、剣呑な空気が張り詰めています。ハッチは家族との思い出作りの為、父親も誘って一夏の家族旅行を計画します。旅行先は様々なプールや遊具があるプラマービル。録画された古いプラマービルの宣伝を家族に見せ、一緒に思い出を作ろうと説得します。この映像は日本でも如何にもありそうな、地方の流行っているかも分からない様な、ちょっと安っぽい娯楽施設の宣伝です。国が違えど、この絶妙な安っぽさは共通ですね。
車を走らせてプラマービルへ到着したマンセル一家。楽しい一時を満喫出来たのは束の間。息子のブレイディ・マンセル(ゲイジ・マンロー役)が地元の若者と揉めた事に端を発し、地元の警察や有力者に目を付けられ、それが巨大な犯罪組織との対立まで発展していきます。ハッチ・マンセル。争いと流血を引き寄せる彼の宿命が残酷にも、平和な観光地でも容赦なく動き始めてしまいます。
音楽・映像について
音楽は特別印象には残っていませんが、この作品の残酷描写を中和する様な、明るい音楽が多かったと思います。家族の団欒の場面が多いので、自然と暗くならないような選曲がされていました。家族全員が水着に着替えてサングラスを着用、横一線で歩く場面では軽快なラップがかかったりとか。敵との戦いでは場を盛り上げる様な雰囲気音楽とか、当たり障りの無い選曲だったと思います。敵との戦いでもblack humorと言えば良いでしょうか、生死を賭けた場面でも明るめの曲がかかり、人の死が一種喜劇であるかの様な構成は前作同様。音響の良さは映画館ならではで、デイビッド・マンセル(クリストファー・ロイド役)がガトリングガン(手動で回す骨董品)を撃つ場面では、実際に彼が陣取った位置から音が聞こえて来たり(劇場だと右方向)、立体的な音響が楽しめました。これがネットフリックスでは実現出来ない、劇場で観る醍醐味です。ネットフリックスの映画は画質を落としていると言う話を友人から聞いた事があり、やはり100%映画を楽しみたいならそれなりの環境が必要ですね。
映像は綺麗で、どの場面でもとても観易かったと思います。指の切断、頭部切断、残酷な罠で死亡する等、痛々しい描写が多いので、そう言うのが苦手な人は注意。敵と戦う前に周到に仕掛け罠を設置し、これが前作同様見事に100%発動する、ホームアローンの様なびっくり映像は健在。どれか一つは不発があってもいいのに、そこは譲れない様子。今回はウォータースライダーやプール、鏡の家、ゲームセンター等、仕掛け罠と相性が良さそうな場所が最後の舞台で、敵を誘き寄せて確実に消耗させる作戦が上手く嵌まっていました。
役者について
ハッチ・マンセルだけでなく、父親のデイビッド、妻のベッカ(コニー・ニールセン役)、息子のブレイディ、娘のサミー(ペイズリー・カドラス役)まで全員、前作と同じ役者が演じています。娘さんはこの四年で大きくなった印象です。ブレイディ役のゲイジ・マンローの演技はとても自然で、どこにでもいそうな感じ(誉め言葉)が良い。マンセル家が本当の家族の様な纏まりを感じるのは、彼を含めた役者陣の貢献が大きいでしょう。どこか斜に構えていると言うか、素っ気無い態度など(旅行と聞いても盛り上がらない)は相変わらずですが、父親の評価を改めているのが良く伝わって来ます。いつもは静かで大人しい少年の様に見えるけれど、芯に強さを秘めており、妹を助ける為に熱くなるところは非常に好印象でした。前作でも家に侵入した強盗に立ち向かっていく場面がありましたが、今回もその勇気は健在。ブレイディはラグビーでファウルをもらって目の周りに痣が出来た、と言う話が出て来ます。想像するしかないですが、恐らくファウルと言っても意地悪な相手から故意にやられた傷でしょう。でも彼は、きっとやり返さなかったのだと思います。やり返したら喧嘩に発展し、多分学校から呼び出しがあったでしょうから。自分の事なら我慢するけれど、妹の尊厳を守る為なら自分の犠牲を厭わない。そんな男気と成長を感じました。
ベッカ役のコニー・ニールセンと言えば、今も色褪せない90年代の名作ディアボロス/悪魔の扉(原題The Devil’s Advocate、1997年制作)を思い出します。あの映画では妖艶な演技を見せてくれましたが、さすがに年を取りましたね。しかし、今の彼女だからこそ出来る役もあるでしょう。いざとなれば夫の代わりに家族を守る強さがあり、どっしりとした貫禄さえ漂う頼もしい妻を好演していました。
ディアボロスと言えば、私には思い出があります。カナダに留学していた時、学校のトルコ人教師が好きな映画の一つに挙げていました。彼女はマイケル・マン監督の名作ヒート(原題Heat、1995年制作)も好きだと言っており、私とよく趣味が合いました。因みに、スリー・キングス(原題Three Kings、1999年制作)は吐き捨てる程嫌っていました。アメリカ万歳?の映画だからでしょうか。その学校では教師が生徒達に「アメリカの事好き?嫌い?」みたいな質問を平気でしており、多くの若い生徒達が「嫌い」に挙手していました。今なら私もそれが分かります。政治の話題を禁忌としない開かれた雰囲気は、日本には無いところですね。そして、見習うべき点です。
閑話休題。次はマイケル・マンの映画によく出演しているジョン・オーティス(ワイアット・マーティン役)について。ジョン・オーティスはマイアミ・バイス(原題Miami Vice、2006年制作)、パブリック・エネミーズ(原題Public Enemies、2009年制作)、ブラックハット(原題Blackhat、2015年制作)と、マン監督の映画に立て続けに出ています。この三作はどれも素晴らしいのでお勧めです。彼はマイアミ・バイスに登場するイエロみたいな見るからに危険な犯罪者や、スーツで身を固めた捜査官の様な堅物まで演じられる、非常に演技が上手い役者だと思います。ワイアットは初見の印象では、如何にも町の有力者(悪い意味で)と言う雰囲気を纏っており、絡まれると面倒臭そうなちんぴら風の男に感じました。一方で、ハッチから「自分の娘だったらどうする?」と問われた時(ハッチが暴れたのは、サミーの頭を叩かれたのが決め手だった)は、その一言が響いたのかハッチを解放したのです。厄介だけれど筋が通っていれば話が通じる、田舎の大将と言うのか、古臭くて人間味を残した人物であるのが伝わって来ました。町の有力者としての顔だけでなく、息子を気遣う父親の面も随所に現れ、実際にこういう人がいそうだなと思わせる、有りのままの演技を見せてくれました。
一番驚かされたのが悪役のボス、レンディーナ(シャロン・ストーン役)でした。レンディーナはとても残酷で印象深い悪役ですが、事前情報が無かったのでシャロン・ストーンが演じていると、最後の字幕を見るまで気付きませんでした。レンディーナは黒いスーツが良く似合っており、出陣前に見事な踊りを披露してくれます。レンディーナが経営するカジノではいかさまをした客の掌に容赦なく刃物を突き立てたり、反抗する者は一族郎党皆殺しと言う徹底した体制で、非常に分かり易い悪党です。彼女は黒いスーツをぴしっときめて、サングラスが良く似合い、服装がとてもお洒落。愛犬がおり、信用出来る女性の側近を二人常に従えて、ナイフの投擲も得意。非常に人物が立っていました。部下も含めて非常に存在感が濃い面子でしたが、惜しむらくは展開が早くてあっさり退場してしまった事。しかし、限られた尺の中でしっかり爪痕を残したのは、シャロン・ストーンの演技あってこそでしょう。極悪人だけれど洗練されて格好良い。良い悪役でした。今作は、ハッチの家族や脇を固める役者たちが非常に目立っていた印象です。
話の展開について
今作も一作目の内容を踏襲しており、犯罪組織が突然現れた「普通の男」に手を焼いて、この男何者だ?と驚愕させられる展開は共通しています。そしてハッチに怒りの火が点くと即断で行動に移り、手が付けられない程暴れてしまうところも同じです。前作はバスに乗り合わせたマフィアの息子とその連れが最初の犠牲者でしたが、今回は地元ではなく他所のゲームセンター関係者や、警察官(保安官?)や地元のちんぴらがその対象に。
ゲームセンターで経営者の男に「俺は!休みを!取りたいだけだ!」みたいな事を叫びながら執拗に殴る姿は、ハッチの痛切な願いが伝わって来ますが、確かにやり過ぎですね(笑)観ているこちらは気分爽快ですが。ブレイディもそんな頼りになる?父親を非難する事無く、どこか認めている様にも見えました。男の子は総じて強い男が好きなのだ。喧嘩両成敗のところを一方的に悪者にされ、娘のぬいぐるみの頭を千切られ、頭を叩かれたりしたらそりゃ親子で怒るでしょう。携帯電話を忘れたと言ってゲームセンターへ戻り、店員をぼこぼこにぶちのめす。ハッチがやる事は無茶苦茶ですが、典型の様なちんぴらって、創作と分かっている映画でも苛々させられるので、よくやった!と言う感想が出て来ます。ブレイディも妹を守る為に拳を振るったところは格好良かった。
ベッカは約束を破って喧嘩をしたハッチを叱りますが、ハッチが用意したワインで仲直り(この後また怒られますが)。この時にワインが「プーリア産」と説明がありますが、後で調べたらイタリアのプーリア州の事のようです。プーリアは彼らが新婚旅行で行った場所であり、そこに訪れた年に瓶詰めされたワインを(eBayで)調達したのが粋ですね。
ハッチは強いけれど無敵ではなく、格闘戦では度々いい打撃を貰ったり、環境を利用しながら苦戦しつつも勝利すると言う展開も共通しています。今回は手の小指をナイフで切断され、無慈悲にもその指はころころと転がり池に落ちてしまいました。そして魚に指を食べられる!私はこの指を根性で取り戻すものと思っていましたが、結局戻らないままだったかもしれません。また円盤が出た時に確認してみましょう。
今回よく分からなかった事が二点あり、一つは前述したハッチの借金問題。もう一つがハリー・マンセル(RZA役)がハッチの家族だった事。寝耳に水と言うか、前作ではそのような設定は公表されていなかった(少なくとも劇中では)と思います。ハリーは黒人なので、彼は養子なのか?と思って後から調べると、インターネット上で至る所に「adopted younger brother」と言う単語を目にしたので、多分養子でしょう。白人と黒人の兄弟と言えば、映画ブレット・トレイン(原題Bullet Train、2022年制作)の「タンジェリンとレモン」を思い出しました。プラマービルは、子供時代のマンセル兄弟が父と一緒に訪れた思い出の地です。確か子供時代はあまり旅行へ連れて行ってもらえなかった、みたいな話があったと思いますが(うろ覚えです)、私も子供時代は親が殆ど旅行へ連れて行ってくれなかったので、親近感を覚えました。
この映画の肝は何と言っても、普通に歩いているだけでも災難を引き寄せてしまうハッチの宿命。たかが町の不良との喧嘩が、面子を守ろうとする三下の親分みたいな連中を引きずり出し、さらにその背後に潜む悪の親玉まで芋蔓式に掘り起こしてしまう。もはや技や才能と言える程の域です。楽しい家族旅行で絆を深め、マンセル家の面々を掘り下げつつ、平和が長く続かないのはお約束。一度ハッチが怒り出したら止まらない怒涛の展開。一作目の焼き直しにならないように「家族」に焦点を当てつつ、人間関係を大事に描写しながらも、肝心のアクション映画の部分はきっちりと仕上げています。それも竹を割った様に単純明快で、敵が現れた!⇒戦う!⇒勝った!ぐらいの小気味良さ。一時間半程度の映画なので、尺の短さから場面の一つ一つはあっさりしており、展開が早いと思います。ジョン・ウィックシリーズがそれなりの尺があるのに比べると、こちらは(時間的な)物足りなさを感じるものの、時間内で大きな不足無く纏まっているとは思います。
銃火器について
物語の最初の方でハッチが「データカード」を回収する任務がありますが、そこで目標達成と思いきや次々と新手が立ちはだかり、ハッチが戦争を呼び寄せる才能を発揮しています。そこで「コルシカ」と言う単語が出て来たと記憶していますが、多分コルシカマフィアの事でしょう。フランス領のコルシカ島(又はコルス島)にいる犯罪組織ですが、確かフランス国家憲兵隊の特殊部隊GIGNが対処に当たった事もあったと思います。そのマフィアとの戦闘を述懐している時、「連中が使っていたのはウージーではなく、MP7(MP7A1)だった」と訂正していました。度々回想で、使われた銃の名前まで詳細に教えてくれるのが、この映画の面白いところ。
ハッチが遊園地で見せたM1928トンプソンの腰だめ撃ちは良いですね。実際にはあの様な撃ち方はしないですが、映画的な見せ方として理解出来ます。仕掛け罠の爆発で敵が怯んだところへ躍り出て、後はフルオートで制圧!トンプソンは腰だめ撃ちが似合いますね。ジョン・ウィックシリーズではハル・ベリーやキアヌ・リーブスが射撃訓練をして撮影に臨んでいます。YouTubeの動画でもその模様を確認出来ます。それと比較すると、ボブ・オデンカークは銃の扱いにあまり慣れていない様に見えます(意図的かもしれませんが)。特にショットガンを撃っている場面では、そう感じました。高度に訓練された人間が行う「戦闘射撃」の様に洗練された感じがしない一方、片手でサブマシンガンを構えた姿がとてもきまっているので、映画的な見せ方としてボブ・オデンカークの射撃は評価出来ると思います。
最後にベッカが使っていたのはDan Inject Model JMと言う麻酔銃です。最初私はエアライフルか何かと思いましたが、劇中でダーツの様な弾が発射されているのが確認出来ます。レンディーナの胸と左目に刺さっていたと思いますが、多分あれは麻酔が効いている状態で、最終的な死因は爆死ではないでしょうか。ベッカはプラマービルの射的で、息子に感心される程の腕前を披露していますが、これには理由があると思います。前作でハッチの本業を知り、恐らく今後も災厄に巻き込まれる可能性を考えて、ハッチが妻に訓練を施した(或いは妻が自分で鍛えた?)のではないか。息子もロッジに侵入して来たレンディーナの手下を見事に締め落としており、家族がある程度自衛出来るように備えがあったのでしょう。そしてベッカは自衛どころか、子供達を残して敵の本陣に打って出ており、夫の窮地を救って敵のボスを仕留めています。もはや妻どころか戦士ですね。結局、レンディーナの一味で唯一生き残ったと思われるのは、締め落とされたあの男だけでしょう。逆にレンディーナ一味の方が皆殺し状態でした。マンセル家、恐るべし。
総評
前作と話の方向性は大きく変わらないと思いますが、今回は家族に焦点を当てており、私は好意的に受け止めました。一方でそこに時間を割いた分、悪役との戦いが急展開で進み、物足りなさはあったと思います。ホーム・アローンの様に、準備万端で敵を迎え撃つ最終戦は、締めのお祭り騒ぎと言う雰囲気が共通しています。舞台が遊園地になったけれど、本質的な違いはありませんでした。
今回、クリストファー・ロイドは前作ほど目立ってはいませんでした。ずっとサングラスをかけて、素顔が見れなかったせいもあるでしょう。孫を可愛がる普通のお爺ちゃんと言う感じで、脇役に徹している感じでした。
何となく、予告動画の雰囲気からある程度想像していましたが、想像通りでした。前作よりもずっと小さく狭い世界で話が展開していると言うか、小さく纏まった印象を受けました。安心して観られる映画ですが、尺がやや短いかと思います。二時間ぐらいにした方が、もっと内容を充実させられると思いますが、この作品はその様な売り方と言ってしまえばそれまで。限られた時間と言う意味では、大変上手く纏まっていると評価出来ます。
一見普通に見える家庭持ちの男が、とんでもない強者と言う展開は燃えますね。守るべきものがあって、ぼろぼろに傷付きながらも最後には勝利を収める。謎の主人公補正が無く、無敵でもない等身大の魅力がハッチにはあります。父親と言う身近にいる人=英雄と言うのは、手の届く存在が頼もしい現実味があり、距離が近くに感じられます。ハッチは環境を利用して頭を使って戦い、対立する相手ともちゃんと会話と交渉を行い、何より準備を怠らない。非常に頭脳派で、立ち回りが上手いと思います。私はどちらかと言えば、ハッチの方がジョン・ウィックより好きですね。惰性で続編を作って欲しくないと思いますが、三作目があっても良いと思える程には、期待を裏切らない良作だったと思います。
最後に
ネットフリックスの台頭により、劇場映画の勢力が弱くなった時期がありましたが、最近は盛り返しています。この作品も、そう思わせてくれるぐらい楽しめました。友人達と楽しい時間を共有出来て、良い夜でした。しかし気になったのが、映画館が非常に閑散としていた事。コロナ禍を経て、自宅で映画を観る事に満足している層が多く存在していると思いますが、それでも映画館の醍醐味は全く別物だと思います。私の地元にある映画館は今から10~20年前であれば、待合の広間にそれこそ溢れるぐらい、大勢の客の姿が確認出来ました。飲食の売店には列が並び、ポップコーンや飲料を買い求める人達が順番待ちしたものです。それが今は見る影も無く、すっかりと活気が失われてしまいました。実質賃金の低下と、それに追い打ちをかける物価高、税金・社会保険料の負担増。これらが可処分所得の低下を招いているのは言うを俟ちません。それなのに、劇場は値上げを強行。仮に100人収容出来る劇場で、20人の客を入れて2,000円徴収したのなら、4万円の収益。料金を1,000円にして八割埋めたなら8万円になります。他にも売店の収益も見込めます。どう考えても後者の方が利益に繋がるでしょう。どうやったら客が足を運んでくれるか、よく考えた方が良いと思います。私はたまの贅沢として、高い料金は割り切って考えていますが・・・
年末・年始は気になる映画が豊富にあります。エディントンへようこそ(原題Eddington、2025年制作)、28年後…白骨の神殿(原題28 Years Later: The Bone Temple、2026年公開予定)、機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女(2026年公開予定)と目白押しです。28年後…白骨の神殿は既に予告動画がYouTubeで観られます。最近の日本人は自分の殻に閉じ籠っていますが、携帯電話の狭い世界ばかり見ていないで、大きな劇場の画面で映画を楽しんではどうでしょうか。
記事公開 2025年10月31日

