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映画を観よう その2 ビーキーパー 

  • 2025-01-11
  • 2025-01-22
  • 映画
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初めに

2025年1月某日。年始休みの中、2025年1月3日金曜日に公開されたばかりの映画ビーキーパー(原題The Beekeeper、2024年制作)を観に行きました。中学・高校時代からの友人達と集まり、昼食やお茶を楽しんでから出発。もう少しで長期連休が終わり、現実へ引き戻される憂鬱を感じる時、気が置けない友人達との一時が心に安らぎを与えてくれました。本題とは関係ない話ですが、この日初めて入った喫茶店の品書きに「ケーキのみの注文は出来ません」と、注意書きがありました。お茶は飲みたくないけれど、ケーキは食べたい人もいると思うので、よく分からない店の都合だと思いました。

本題に戻りまして。この映画の監督はデヴィッド・エアー。この人が手掛けた映画の本数はまだ多くないですが、トレーニングデイ(原題Training Day、2001年制作)、エンド・オブ・ウォッチ(原題End of Watch、2012年制作)、フューリー(原題Fury、2014年制作)など、なかなか良い映画に多く関わっています。

脚本はカート・ウィマーで、この人は私が好きな映画リベリオン(原題Equilibrium、2002年制作)の監督・脚本を務めています。

主演はジェイソン・ステイサム。近年ブルース・ウィリス認知症で俳優業から引退してしまって、とても残念ですが、ジェイソン・ステイサムには彼の分も頑張って、アクション映画界を牽引して欲しいと思います。まだ劇場公開中なので、内容を知りたくない人はこの記事を見ないように。

粗筋

話の内容は特別凝ったものではなく、簡潔に言うと悪党が懲らしめられる話です。いつの時代も、勧善懲悪、悪が滅ぼされる映画は観ていて気持ちが良いですが、この作品は少しだけ毛色が違っていると思います。

CIAの極秘プログラム(映画でよくあるCIAの秘密〇〇)であるビーキーパーに関わっていた工作員アダム・クレイ(ジェイソン・ステイサム役)は、引退後に養蜂を営んでいました。良き隣人であり、納屋を貸してくれている老婦人が唯一、彼に優しく接してくれた人でした。その夫人が、日本でも社会問題になっている特殊詐欺の被害にあうところから、話が展開していきます。

彼女は元教師で慈善団体の現職理事。彼女の退職金や団体の資金が、パソコンの遠隔操作で犯罪組織に根こそぎ盗られてしまいます。その事が原因で彼女は銃で自殺を図り、命を落としてしまいます。アダムは即座に犯人捜しを始め、過去培った経験と技術を駆使して、驚くべき速度と苛烈さで犯罪者達を追い詰めていきます。

役者について

ジェイソン・ステイサム以外の役者は、聞いた事がある人がちらほらといるものの、作品を通して特別目立っていた印象はありません。私はジェイソン・ステイサムは、特別演技力がある役者だと思いません。基本的に同じような役が多く、演技の幅が狭いと言うか、いつも難しい表情をして、大概アクション映画ばかりに出ている事が多いと思います。製作者がそのように求めている、と言うのも多分にあると思いますが。けなしたい訳ではなくて、彼はむしろ、私が好きな役者であります。

好きな理由として先ず第一に、どの映画でも彼の格闘場面が素晴らしい事。肉体が良く鍛え上げられているのが分かるし、打撃を繰り出す時に、突きの速さや重みを感じさせてくれます。「この一撃を食らったら命に関わる」と生存本能に警告するような、打撃の必殺感や鋭さが直接伝わって来るので、観ていて実に気持ち良いからです。映画バトルフロント(原題Homefront、2013年制作)では、ガソリンスタンドでちんぴらに絡まれた時、瞬く間に容赦無い暴力で無力化しています。このスタンドでの格闘も、観ていて極めて爽快でした。バトルフロントと言えば、ダニー・ボイルの名作127時間(原題127 Hours、2010年制作)に出演していたジェームズ・フランコが共演していましたが、悪役が全く似合わず、ぱっとしませんでしたね・・・この映画でも、彼の体術の冴えは完璧でした。

第二に、ジェイソン・ステイサムが出演している映画は、良い映画が多いと言う事。スナッチ(原題Snatch、2000年制作)、リボルバー(原題Revolver、2005年制作)、キャッシュトラック(原題Wrath of Man、2021年制作)など。特にリボルバーは彼が出演している映画の中で、最高だと思います。運も実力の内と言いますが、良い作品に出演出来る幸運も、才能の一種かもしれません。

主人公アダム・クレイと話の展開について

この映画の筋書は奇を衒うものではなく、ただ淡々と先が読める展開が続いていきます。作中でビーキーパーの役目は「体制を維持するのが使命だ」と説明がありますが、漠然としていて組織の全容がはっきりしません。ビーキーパーを引退していると言う割には、何処かにまだ繋がりが残っているようで、電話で協力者に連絡を取り、詐欺集団の拠点捜索を依頼しています。すっかり有名になってしまった映画ジョン・ウィックのコンチネンタルホテルや主席連合のような、物語の厚みを増すための組織や設定等は無く、あまり細部には拘っていないようです。今後継続して続編を出さないのであれば、そのあたりはある程度適当でも良いのかもしれません。

アダム・クレイが悪党を執拗に追い詰める理由としては、老婦人の敵を討ちたいと言う復讐心や義憤など、人間らしい感情が原理だと思います。しかし、行動原理は人間らしい感情だけではないように見受けられました。元々ビーキーパーの工作員としての特性と言うのか、この世の秩序を保つのが使命とばかりに、あまり感情を籠めず、粛々と作業の様に悪人を殺していくのが興味深いところです。キャッシュトラックの役でも、非情さや冷徹ぶりを見せていましたが、ジェイソン・ステイサムはこの様な役を演じるのが合っているのかもしれません。

映画パニッシャー(原題The Punisher、2004年制作)で主人公フランク・キャッスル(トーマス・ジェーン役)が「これは復讐ではなく、制裁だ」と言うような発言をしていますが、アダムはパニッシャーのような性格に近いのかもしれません。作品への理解=愛が足りない一部の人々は、パニッシャーの行動は「ただの復讐だ」と主張していますが、ちょっと違うと思います。途中まではそうかもしれませんが、ただの復讐なら家族を殺した連中を、血祭りに上げた時点で終了です。組織を丸ごと壊滅させる徹底ぶりを見せたり、作品の最後で「全ての悪に対する宣戦布告」とでも言うべき誓いを立てているところからも、個人的な事情を超えた「正義の執行者」に変容した感じです。それと似たような感じで、アダム・クレイは何と言うか「自分がやらねば」みたいな義務感や使命感、静かな衝動のようなものも、行動原理の一部となっていたように見えました。この辺が、パニッシャーと何となく共通している点だと思います。因みに私は、パニッシャーは劇場版・テレビ版と何作かありますが、トーマス・ジェーンが一番適役だと思っています。原作を読んだ事が無いので、適役と言うより、私の好みと言った方が良いかもしれません。

アダムは最初に襲撃した詐欺集団の拠点で堂々と素顔を晒し、生き証人をしっかり残しています。普通なら自分の正体や手の内を見せず、闇から闇へ静かに葬っていくのが定石では?と思います。この疑問はすぐに払拭されました。わざと足跡を残し、敵を誘き寄せて生け捕りにし、情報を吐かせる。手間を省くだけでなく、捕らえた敵を見せしめの様に残虐な手口で殺害し、標的との距離を詰めていく。敵に最大限の恐怖を与え、静かに且つ大胆に目標を達成していきます。勿論、敵はすぐに対策を立ててきますが、それを次々と退け、アダムの無敵ぶりをまざまざと見せつけてくれます。

途中から、この男には不可能は無いのだろうと言う安定感がはっきりと形成され、起伏ある展開や転調は出現しないであろう事が、容易に想像出来ます。途中で「現役」のビーキーパーが追っ手として差し向けられたり、詐欺集団の若造の背後に国家権力があったりと、話がやや壮大な方向に進みますが味付け程度。詰まるところ、特に深く考える事無く楽しめる娯楽映画、良くも悪くも最後まで安心して鑑賞出来る話の展開でした。

暴力表現、戦闘描写について

アダム・クレイによる清々しいまでの暴力の解放は、最大の見所の一つでしょう。私が一番好きで一番盛り上がったのは、最初に詐欺集団の拠点の一つに乗り込むところ。胸糞悪い犯罪者達が無警戒な所を、突然の嵐の様に襲撃する場面は、痛快の一言です。いつの時代も勧善懲悪は燃える!!アダムは立ちはだかった警備員達に堂々と「今からこの建物に火を放つ」みたいな宣言をして、あっと言う間にのしてしまいます。この場面は胸の高鳴りを感じました。そして建物の中に入ると、電話を使った詐欺に加担していた下っ端の一人が、アダムに舐めた口を利いた刹那、死ぬんじゃないかと思うぐらい頭部を何度も殴られるところは「よし!」と拳を握りたくなるぐらいの快感でした。悪の黒幕は勿論の事、自分が死ぬとは夢にも思っていないような不愉快な小物が、他人に与えた理不尽が自分に返り、徹底的に蹂躙されるのは実に小気味良い。その後、アダムは駆け付けた増援の警備員を無力化した後に「お前達が死んでも知った事か」と容赦無く放火。気絶したところに火の手が回ったので、警備員は当然死亡。ここが個人的には物語の最高潮でした。欲を言えば一人も生かす事無く、その場に居合わせた全員を始末して欲しかったです。

最初の襲撃以降は、次々と放たれる追っ手を屍の山に変えていくアダムの無敵ぶりに、時代劇のような予定調和を感じてしまい、もう少し捻りが欲しいところ。

全体を通してアダムは殆ど銃を使わなかったと思いますが、この作品では凶器よりも素手による暴力が目を惹きます。また、殺害方法に工夫があり、わざわざ彼の納屋まで出張して来た雑魚ちんぴらの指を切断し、車に縛り付けた上で水死させる等、ご苦労様ですと言いたくなるぐらい努力をしています。この手の込みようもパニッシャーに似ています。

最後に現れた敵のラザルス(テイラー・ジェームズ役)は見た目がとても派手で目立つ存在ですが、彼の仲間を含めてあっけなくやられて残念でした。しかし、ラザルス個人がアダムに刃傷を負わせたのは表彰ものでしょうか。戦闘は二分程度で決着しますが、血みどろの戦いと表現するに相応しく、最後に少しだけ緊張感がありました。彼が使っていたナイフが何なのか知りたいですが、判別出来ませんでした。

銃火器について

この映画にも多数の銃火器が登場しますが、特に目を惹くような要素は無かったと思います。M4系のライフルが多く使われていますが、基本的にフルオートのばら撒きが多く、一発一発の重みが感じられませんでした。映画の中で、銃の役割は非常に軽かったと思います。役者の銃の取り回し、構え等は悪くなかったと思います。

一つだけ、珍しい銃が登場していたので紹介します。話の途中で犯罪組織がアダムに対抗する為、元デルタフォースやシールズの隊員を集めて部隊を結成します。劇中では「特殊部隊」としか字幕が無かったと思われます。訳者によっては気遣いなのか(あるいは知識不足か)、専門用語や固有名詞を、分かり易い別の言葉に変換する事がありますが、余計なお世話だと思います。その部隊が統一して使っていたのがLeviathan DefenseのライフルRagnarökです。M4系のライフルです。劇中では映像が暗いし、銃の刻印まではっきり見えないので、某サイトで確認しました。レヴィアサンとかラグナロクとか、何とも大仰な命名です。七つの大罪で嫉妬を象徴する悪魔と、北欧神話の最終戦争の名前ですね。私としては七つの大罪に「無関心」を加えて、八つの大罪にして欲しいです。刃物や銃に、神や悪魔の名前を付けてしまうのは、ちょっと恥ずかしいですね。有名なスコッチの一つハイランドパークも、北欧神話に由来する商品名がありますが・・・レヴィアサン・ディフェンスは多分、そこまで名の知れた企業ではないと思いますが、こう言うのは多分、制作側の趣味や好みも入るのだと思います。

総評

映像や音楽については、特に語るべき事が無いので省略しました。戦闘場面が大半を占めるので、必然的にそちらの評価が多くなります。この映画面白いのですが、アダム・クレイが無敵過ぎるので、もっとはらはらさせられたり、緊張感が欲しかったと思います。別作品のジョン・ウィックの場合は、自分より格下の有象無象を相手にする事も多いですが、例え相手が雑魚マフィアであっても獅子搏兎(ししはくと)とばかりに全力で、完全武装で確実に一人一人消していきます。そして、途中で捕まって誰かに助けられたり、ぼろぼろになりながらも戦うのがジョン・ウィックです。

一方アダム・クレイは、軍の特殊部隊にいた者達やFBIの特殊部隊を相手にして、ほぼ無傷で完封していきます。FBIやシークレット・サービスを相手にする時は、可能な限り殺さないように努力しているのか(何人か死んでいそうに見えるけれど)、体術で無力化したり、銃を使う時はプレートキャリアーに当てています。ところが相手は本気で命を奪うか、捕縛しようとしている手練ればかり。高度に訓練された人間で雑魚とは違うし、それを孤立無援で難なく制圧してしまうのは、さすがに非現実的だと思います。ジョン・ウィックですら仲間がいましたし。

また、アダム・クレイは消火器など現場にある物を有効活用したり、エレベーター等の環境利用、敵から奪った銃を使ったり、ラザルス戦では彼のブラス・ナックルとナイフを拝借しています。現地調達は周到な準備とは程遠いので、この点でもアダムの常軌を逸した超人的、或いは神か悪魔が憑依したような強さが際立ちます。ある種ランボー的な無敵ぶりと言うか、繊細な作品作りを求める人には向かない映画かもしれません。

私としては最近はジョン・ウィック系に食傷気味(一作目で満足した)だったので、この映画は別腹と言う感じがして良かったと思います。

物語の最後にFBIの捜査官ヴェローナ・パーカー(エミー・レイヴァー・ランプマン役)がアダムに銃を向けたものの、彼との短い会話の後、見逃す選択をしました。最後に彼が言い残した「法律の為に戦うのか、正義の為に戦うのか」と言う台詞が心に残ります。法は勿論とても大事で、正しい法解釈と法の遵守は秩序維持の為に不可欠です。しかし、人の最後の拠り所は善意とか思いやり、正義を愛する心ではないのか。そしてある条件下では法は無力で、法を超越した力が必要な時もあるでしょう。犯罪者達が強いのは、取り締まる側が法に縛られているからです。メキシコの麻薬戦争を見ていると、そのように感じます。例え映像作品の架空話でも、高齢者を付け狙う悪党が裁かれたのは、ほんの少しだけ溜飲が下がった気がします。これから先の時代、世が乱れ悪の勢力が拡大するにつれ、それに対抗する勢力の力も増していきます。悪党どもは覚悟した方が良いでしょう。

最後に

観終わった後、私の気の合う友人達と思い思い感想を交換。概ね好評な映画でした。鑑賞後に一緒に語り合える仲間がいるのは素敵です。元々映画の趣味が合う人達なので、一緒に映画を観る時はだいたい同じような評価に辿り着きます。

映画って、偉そうに難癖を付けて低評価をしたり、重箱の隅を突くような野暮を見せる人達が多いですが、楽しんだ者勝ちだと思います。創作と言えど、あまりに現実と乖離が過ぎると興覚めしますが、私は可能な限り懐を深くして受け止めたいと思います。生みの苦しみを知らない者ほど、安易にけちを付けるのが世の常。暗い情熱に燃える男が、犯罪組織を相手に大立ち回りをする本作。やや大味ですが、息抜きに痛快な娯楽アクション映画を求める人にお勧め出来る作品です。

記事公開 2025年1月22日

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