連休前にバー巡り
2025年8月某日。この日は妙に目が冴えて、午前三時を過ぎても眠れずに悶々としていました。普段は仕事の疲れや持病の眠い病(腸が悪いからかも)のせいで布団に入ると、すぐ寝付いてしまう方ですが、たまにこの様な事があります。こう言う時は諦めて酒を飲むに限ります。もう飲むしかねぇと思って、睡眠薬代わりにウィスキーを飲み始めました。だらだらとパソコンを弄りながら酒を飲んでいると、やがて日が昇って来たので、外を見やれば美しい朝焼け。玄関から外に出て、早朝の冷えた空気に心地良さを感じつつ、カメラで淡い色に染まった東の空を撮影しました。本当は毎日早起きした方が良いですね。朝の空気の新鮮さと、空の色の美しさはこの時間特有のものがあります。毎日定時で仕事が終われば、それも可能なのに・・・
結構な量を飲んだところで、そろそろ眠られそうな感じがしたので、布団に戻ってようやく眠りに付けました。それから、いつもより遅い時間に目覚め、ゆっくりと行動開始。昼になるとビールを飲み、再びウィスキーを飲み始め。今日はもう大した事が出来ないだろうと諦め、怠けて過ごす事に決めました。そうしていると、衝動的に外へ飲みに行きたくなってきました。本当はお盆休み中に外で飲もうと思っていましたが、連休中は天気が怪しかったのと、湧き上がる衝動を抑え切れずに飲みに行く事に決めました。一旦決めたら行動が速く、二十分ぐらいで支度を整えバスに乗り街へ向かいました。
例によって当日飲みながら記録を付けていないので、後日記憶を総動員して記事を書いています。この記事を書いている今は連休に入りましたが、この日飲み過ぎた(食べ過ぎた)のが祟ったのか、今現在体調不良中。何でも程々でないといけませんね。
先ずは腹ごしらえ
バスを降り周囲を見渡すと週末の黄昏の街は活気に溢れ、行き交う人々の間を縫って先ずは食事を摂りにD店へ向かいました。D店は以前からその存在を知っていましたが、酒だけでなくしっかりした食事を提供出来る店のようで、ちょっと気になっていました。居酒屋でも良いですが、居酒屋は料理が美味しくても酒が適当な店が多いので。大体どこの居酒屋も、蒸留酒は安くて不味い物しか置いていないし、カクテルも美味いと思った験しがありません。よって今回は満足に食事が摂れて、且つ酒の揃えが豊富な店を選びました。


店に入りカウンター席へ案内されると、若い店員さんに食事を注文しました。パスタを食べながら先ずはジントニックを。ジントニックはヘンドリックスで作って貰いました。ヘンドリックスはネット販売でよく見かける銘柄で、胡瓜を使った珍しいイギリスのジンです。店員さんによるとイギリスは胡瓜の消費が多く、サンドイッチの具材として定番で、酒の摘まみでもよく食べるそうです。トニックは定番のウィルキンソンを使っていました。トニックの量が多かったのか、ジンの風味が弱かったと思います。胡瓜の風味もジントニックにすると全く伝わって来ませんでした。機会があれば購入して、ストレートで味わってみたいと思います。ジントニックは甘過ぎず爽やかさがあり、香辛料を使っているところからも食事と相性がばっちりです。カレーのお供にしても良さそうですね。
揚げ物を追加注文しつつ、二杯目はハイランドモルトのウルフバーン・プライベートカスク。ウルフバーンは19世紀に閉鎖され、2013年復活した蒸留所で前から気になっていました。私が飲んだのはガイアフロー静岡蒸留所向けの商品のようで、ラベルに「gaia flow Japan」と言う手書きの文字が確認出来ます。クォーターバーボン樽(名前の通り通常の1/4の容量の樽)で熟成、度数58.3度と高めの設定。ところで、何故に日本の蒸留所は酒瓶の形状や、ラベルデザインをスコッチに寄せているのでしょうか。意識し過ぎです。蒸留所名も横文字だし。そこは日本語で勝負でしょう。こう言うところが嫌いなんですよ。さて、肝心の味わいですが前回飲んだキングスバリー・インペリアル23年に近いかもしれません。色は明るい黄金。カスクストレングスの強さがそのまま伝わってきて、はっきりした濃い味わいでした。果実の様な酸味があって、程良くピートが効いています。香辛料の強い刺激もあります。強いアルコールと香辛料、酸味、濃い味わいとピートまで揃い、実に強烈な印象でした。カスクストレングスにしても若さが伝わって来ましたが、原酒は悪くない印象です。美味しかったと思います。ウルフバーンは公式で10年の物が出来上がっているので、今度試してみたいと思います。
B店
他に気になる酒が目に付いたものの、食事を摂るのが主な目的だったので、長居はせずに区切りを付けました。D店は食べ物の味付けが濃く、量が多かったのでちょっとお腹が苦しくなりました・・・量は適度に少なく、味付けはもっとあっさりで良いです。バーと言うより、居酒屋寄りの味付けだったと思います。やはり酒の前の食事はラーメン一杯で充分だ。お腹が一杯の状態で続けて飲むのは躊躇われ、腹熟し(はらごなし)に三十分程街を彷徨い歩きました。その時間で消化するのは無理ですが、意外と効果があってお腹が楽になります。
B店に到着すると照明に照らされた扉が、幻想的な雰囲気で暗い路地に浮かび上がっていました。このお店の門構えが好きで、いつも冒険の扉を潜るようにわくわくします。入店すると端の方にお客さんが一人だけ。最初の一杯は旬のカクテル、この時期に欠かせないモヒートです。ラムはハバナクラブを使っていました。甘過ぎず、ミントの香りが爽やかな極上のカクテルです。客が少ない間は店主と雑談を楽しみました。B店主はとても博識な人で、私が諏訪市へ旅行に行きたいと言った時、即座に「御柱」と言う単語が出て来るのが流石。静かだったのは最初だけで、その後は客が引っ切り無しにやって来て、大繁盛の夜でした。



二杯目は何にしようか悩んでいると、棚にちょこんと小さいお酒が置いてあるのが目に入りました。何処かで見た事あるぞ、と思ったので確認するとやはりシャルトリューズでした。次に飲む物が決まりました。シャルトリューズ・エリキシル・ベジェタルです。瓶のような形をした木箱に収められており、約130種の薬草・香草・花が原料として使われています。照明が暗いのではっきりしませんでしたが、色はヴェールと同じような緑だと思います。香りはコーラ?っぽいと言うか、駄菓子の様な薬の様な感じ。子供向けの甘い風邪薬みたいな匂い、と形容出来るかもしれません。度数は69.0度と相当高いですが、不思議な事にアルコールの強さを全く感じませんでした。大袈裟な言い方ですが、事前情報が無ければ40.0度と言われても信じられるぐらい、アルコールがとても優しく感じました。喉に全く引っ掛からず、まるで水の様に浸透して来ました。非常に驚きだった・・・通常の商品より薬草の複雑な風味を感じられ、程良い苦みがあって、甘さが殆ど無いのが特徴です。定番品の場合はっきりとした甘さを感じ、如何にもリキュールと言う印象ですが、これは正に「エリクサー」と言う感想です。
三杯目はせっかくなので、紹介された別のシャルトリューズを飲みました。リキュール・ド・9センティネアと言う商品で、恐らく現行品ではなく旧瓶だと思います。色はジョーヌのように黄色。こちらはエリキシルより甘いが、それでも定番品よりずっと甘さ控え目です。このぐらいが丁度良い。こちらも薬草の複雑な香りがあって、美味しく飲めました。定番品より高いだけあって、流石に品質上々でした。この夜初めて、薬草を生き生きと感じさせるリキュールに出会ったかもしれません。シャルトリューズはやはり、香草系リキュールの中では別格だと思いました。甘さが勝ち過ぎると、薬草の風味が伝わり辛くなる。砂糖は味を誤魔化すのに最適ですからね。本場イタリアンは砂糖を使わない理由がよく分かります。日本も昔は、料理に砂糖を使わなかった筈ですけれどね・・・



四杯目はアイル・オブ・ジュラ10年の旧瓶。こちらは何年も前に、同じ物を飲んでいたかもしれません。私は常にバーでは新しい物を試したいので、同じ物を注文しないようにしています。しかし同じ店で沢山飲んでいると、こう言う事がたまにあります。これまで知らなかったけれど、ジュラ島はアイラのすぐ近くだと教えて貰いました。裏面のラベルに英語とフランス語が並記されており、年数は「ANS 10 D`AGE」とフランス語で書かれていて不思議に思いました。後から画像検索をかけて判明しましたが、これはどうやら90年代の商品で、フランスへ輸入されていた物のようです。味わいは柔らかく、悪く言えばのっぺりしてなるい。この頃は今よりずっと原酒があった時代ですが、これなら現行品でも出せる味でしょう。特別美味さを感じませんでしたが、香りはとても良かったと思います。バーボン樽とワイン系の樽を使っていると予想しました。香りの良さはワイン樽の影響かと思いましたが、現行品の10年はバーボン樽と、オロロソシェリー樽を使っているようです。丁度、今自宅で飲んでいるバスカーに味わいが近いかもしれません。アイル・オブ・ジュラは全然開拓出来ていないので、そろそろ購入してよく味わってみたいと思います。
お次は久しぶりにテキーラ。陶器の瓶が目を惹く、クラセアスール・レポサドです。瓶の大きさからして1,750mlの特大の方でしょうか。近年、テキーラ全般が異常に値上がりしているように見えますが、アメリカの資本が入り込んでいるのが原因の一つだと、B店主が言っていました。現地人が飲むより輸出向けとか。そう考えると納得出来るところがあります。メキシコと言えば麻薬戦争で大変な状態ですが、現在話題になっているフェンタニルがメキシコ経由(日本も!)でアメリカに入ったり、逆にアメリカから銃器がカルテルに流れたり・・・もう滅茶苦茶ですね。
話を戻して。クラセアスールは香りがとてもよく、テキーラの野性味を感じさせつつも上品な味わい。ドンフリオ1942(これも1.5倍ぐらいの値段になった)に近いでしょうか。色は明るい黄金で、熟成8か月ですがそれなりに熟成感があります。テキーラはブランコだと物足りない感じですが、レポサドはテキーラらしさを残しつつも、少しだけ洗練さも感じられ、味わうのに丁度良い時期かもしれません。この商品かなり高額なのですが、値段程の美味さは感じませんでした。美味いのは間違いないですが、もっと低価格でもこの品質の商品はいくらでもあります。


テキーラの次に飲んだのがメスカルのベネバ・アネホ。メスカルのアネホはあまり見ないかもしれません。こちらはメスカル特有の煙臭さ・ゴム臭さがあり、野性味を感じつつも、テキーラのアネホに近い味わいだと思いました。この商品は現在市場から消えているようですが、市場価格で3,000円台ぐらいだったみたいです。値段以上に美味いと思いました。もっと高額なテキーラのアネホと比較しても、全く引けを取りません。正直なところ、先に飲んだ高級品のテキーラが大した事ないと感じてしまう。やはり酒の美味さと値段は比例しない。
最後はマティーニで締め。ジンはロンドンヒル、ヴェルモットはセイクレッド・アンバーヴェルモットだったと思います。ヴェルモットは数滴垂らしただけに見えました。少し苦みがあったけれど、結構甘口。私はドライの方が好きですが、バーでドライを頼んでも結局甘い事が多いと思います。マティーニは自分で研究して、自分好みの組み合わせを探す方が早いかもしれない。マティーニを飲んでいる時に、少し酔いが回っている感じがしたので、大人しく勘定を済ませました。でも、最後の一杯がカクテルと言うのはどうかと。物足りない感じがしました。
C店
B店を出てこのまま帰ろうかと一瞬思ったけれど、結局ふらふらと、誘蛾灯に向かって行く虫の様にC店へお邪魔しました。この日は新しい店員さんがいて、友好的に話しかけてくれました。最近飲んで良かった酒は何かとか、当たり障りのない会話をしました。私は自慢出来る程、酒に関する知識は無いものの、その店員さんはこちらが話した事を手帳に控えており、真面目によく勉強しているようで感心しました。私の他に客はおらず、静かで落ち着いた雰囲気の中酒を楽しみましたが、店の売り上げが心配になりました。経営能力次第だけれど、バーは割に合わない商売ですね。
最初の一杯はラスティーネイル。このお店は香り付けにオレンジを使っています。チョコレート菓子にオレンジが使われるように、甘い物とオレンジの相性は極めて良いですね。ドランブイは超が付く程有名なリキュールですが、まだ自分で買った事がないので、これもその内自宅で楽しみたいと思います。続いてラフロイグ10年、カリラ12年をショットで注文しました。ストレートで飲むのは六年ぶりぐらいだと思いますが、やはりラフロイグも味が落ちていますね。ピートが以前より弱いと言うか、味わいや香りの強さがかなり霞んでいると思います。私の評価としては、主要なアイラモルトの序列はカリラ>ラフロイグ>アードベッグ=ボウモアと言う感じです。


C店主がラフロイグはチャールズのロイヤル・ワラントだと教えてくれました。私はてっきり「ロイヤル」と名前に付いてる物が王室御用達だと思っていましたが、どうやら違ったらしい。ロイヤルと付いていなくても御用達の銘柄があるようです。
最後に注文したのがあかし5年シェリーカスクでしたが、これが予想外に美味かったです。私は基本的に、日本の蒸留酒は値段と中身が合っていないと思うので、敬遠しています。この商品は500mlで一万円を超えるので高い商品ですが、確かに美味い。度数は62.0度でピートを効かせています。カスクストレングスですが、度数を落としても充分美味いのではないだろうか、と思う程に原酒の良さを感じられました。実に味わいが鮮やかで、原酒が潤沢だった頃のスコッチを思わせる様な美味さを感じました。アルコールは度数なりの強さがあるが、先に飲んだウルフバーンよりは飲み易く感じました。フェノール値は50ppmですが、ピートはきつくなく程良い感じ。この数値は目安程度で、実際に飲んだ時に数値と印象が異なる事が多いと思います。この商品はピートを効かせた麦を輸入して作っているそうです。自分で買うには高くて手を出し辛いですが、バーで試しに飲む分には良いだろうと思います。
最後に
久しぶりに美味い日本の蒸留酒を飲み、とても満足したところで店を出ました。とても良心的な値段でお酒を提供してくれるC店。店主の人の良さもあって、今後もこちらで酒を楽しみ、色々勉強させていただこうと思います。この夜の収穫はウルフバーン、シャルトリューズ、そしてあかし。ウルフバーンとシャルトリューズは購入してじっくり味わいたいと思います。
今日の思い出を反芻しながらゆっくりと帰宅。いつも通り田圃道を通って帰りましたが、気紛れに水路をシュアファイアで照らすと、意外にも魚が沢山泳いでいました。元気に泳ぎ回る姿に生命力を感じました。水黽もいたと思います。気候危機や農薬、自然破壊によってどんどん生物が消えていますが、逞しく生きる姿を確認出来て嬉しく思いました。美味い酒が飲めるのも、自然の恵みがあってこそ。大事にしていきたいですね。
記事公開 2025年8月23日