始めに
2024年4月某日。15年以上前からずっと行きたかったけれど時間が無くて、心のゆとりも無くて。ずっと行けなかった念願の上高地にようやく辿り着きました。本当に長かった・・・残念ながら、宿泊施設はどこも予約一杯で日帰りとなりました。限られた時間の中で前回の静岡(別記事良かったら見て下さい)に続いて強行軍となりましたが、時間が無いなりに満喫出来たと思います。東海地方ではなく、関西か関東方面に旅行を、と思っていましたが。衝動的にこちらへ行きました。
この記事は写真を多く掲載しています。映画じゃないけれど、自分で目にするまで情報を閉ざしたい人は、この記事を見ない方が良いでしょう。
ナショナルパークゲート
上高地は国立公園で自然保護の観点から、一般車両の乗り入れが禁止されています。自家用車で行く場合は、あかんだな駐車場若しくは沢渡(さわんど)駐車場で駐車し、そこからはバス若しくはタクシーの利用になります。私の場合は沢渡駐車場からバスを利用しました。
市営第二駐車場に駐車し、そこから歩きました。大した距離はありません。駐車場の利用料は一日700円です。バスはナショナルパークゲート(さわんどバスターミナル)と言う所から乗る事が出来ます。バスの時刻表を見ると1時間に2便あるのが分かりますが、私が行ったときは増便と言うのがあり、実際には1時間に3便ありました。バスの運行に合わせて到着時間を調整しなくても、充分乗る機会はあると思います。
ナショナルゲートパークは小奇麗な感じで、山中にあるバスの発着場には似つかわしくない雰囲気でした。7年以上前に調べた時は、バスの往復運賃は2,050円でしたが、今は2,800円します。ここにも物価高騰の影響が及んでいます。バスは補助席まで倒して乗客を満載して出発します。景色を楽しみたい人は、左の列の窓側に座ると良いでしょう。ここから上高地バスターミナルまでは、凡そ30分かかります。
上高地バスターミナル
途中、他のバスやタクシーと道を譲りあいながらゆっくりと進行します。この時期はまだ山に雪が残っていると事前に知りましたが、舗装路の路肩に僅かに残った雪が確認出来ました。大正池ホテルを横切り、上高地バスターミナルで下車しました。上りはここが終点です。最近山開き(毎年4月27日)したばかりで、天候も良かったためか観光客が沢山いました。写真を撮るとどうしても他の人達が映りこんでしまいますが、容易に個人を特定できる画像のみ、頭部を黒塗りにしています。
バスを降り立った時の「ようやくここまで来れた!」と言う高揚感は筆舌に尽くしがたいものがあります。美しい白樺の木々と、間を縫って覗ける雪を被ったままの山々、遠目にも宝石のように美しい川を視認しただけで気分が高まりました。
ターミナルから少し歩くと河童橋があるので、ここを中心として行動しようと決めました。到着したのが10時頃だったと思いますが、私に許された時間は凡そ5時間。なので、15時にはここを出立せねばならず。事前に自分で旅のしおりを作っていたので、歩いて回る時間を計算しました。どう頑張っても大正池から明神周辺までの散策が限界のようでした。あまり深く考えている時間も無いので、あとはひたすら歩くのみです。
看板に上高地に生息している野鳥の一覧がありますが、この日私がはっきりと目視出来たのは雉鳩(きじばと)と鴛鴦(おしどり)ぐらいでした。姿が見えなかったものの、時折聞こえてくる鶯(うぐいす)の爽やかな鳴き声が、清涼感を与えてくれました。
下記に上高地公式サイトから画像を拝借しました。私は河童橋からウエストン碑を経由して大正池まで行く事に決めました。これを見る限り片道70分もかかります。河童橋から明神池までの往復は片道50~60分。合計250分=4時間はかかることになります。私の場合は単に歩いて景色を眺めるだけでなく、写真撮影も頻繁に行います。なので、如何に時間を短縮出来るかが腕の見せ所です。
ここからは殆ど休憩も食事も摂らず、歩いては撮るの繰り返しでした。中に着た普通の長袖Tシャツを除けば、A-TACSゴーストのジャケットにマルチカモのコンバットパンツ、LBTのバックパックを背負い、BATESのブーツで足元を固めると言う気合の入れよう。しかも基本は競歩のような早足、人気が無い所では駆け足。ちょっと変な人だったと思います。
河童橋
梓川とそれに架かる河童橋の写真は見た事ある人が多いでしょう。梓川は水深が浅く、川幅や水量も大した事なく穏やかな流れですが、ここは少し川面が白く波打ち、やや迫力があります。ネット上で見た通りの美しい水の色は眼福でした。この橋の両岸は宿泊施設や飲食店、土産物屋等があり、人で賑わっています。人いきれが苦手な私はうっ、と思いました。塵の投棄防止の為か、飲食出来るのはここか、明神館ぐらいかと思います。自然保護優先なのは理解出来ますが、一極集中しているせいで食事をするのも並んで待たないといけません。
土産物を購入したい人は、観光が終わってからここで買い物を済ませ、上高地バスターミナルへ行くと良いでしょう。バスの車内放送でも親切に教えてくれますが、帰りの便は始発であるこちらから乗るのがお勧めです。大正池前などでもバスに乗れますが、始発の時点で乗客が一杯なので、多分途中の停留所では乗る事が出来ません。
ウエストン碑経由で大正池へ
本格的なデジタルカメラを初めて購入してから既に8年近く経ちましたが、恥ずかしい事につい最近までホワイトバランスの存在を忘れていました。これまでずっと自動にしていましたが、最近ようやく状況に応じて調整する事を覚えました。旅行の前に室内撮影をした時、蛍光灯の設定に変更していたのを忘れており、一部青白くなっている画像があります(愛用カメラのSIGMA dp-0は元々寒色系ですが)。
河童橋を渡ってからウエストン碑、穂高橋・田代橋方面までは、妙に歩道が舗装されたような感じになっています。一般車両は乗り入れ禁止ですが、ヤマト運輸のような配送業者の車はたまに見かけます。自然が好きな人なら、ここまで仕事で来られるのは役得でしょう。
ウエストン碑では飛び石を恐る恐る渡ろうとする子供と、それを見守る高齢者の微笑ましい姿が見られました。観光客の年齢層は幅広く、女の子一人、恋人同士、友達同士、家族連れ。正に老若男女問わず上高地に訪れているようでした。また、白人やアジア系の外国人旅行客も多数いました。
穂高橋・田代橋は川が二股に分かれた所に架かっている橋で、同じ場所に連なっています。間近に豊かな川の流れを確認出来るので、見所の一つです。
穂高橋・田代橋を渡り、林道を抜けて大正池方面へ向かいました。熊除け用で「クマベル」なる物が設置されていました。実際に旅行客が襲われた事例があるようです。多分この鐘を鳴らしただけでは逃げてくれないと思いますが。林道は同じような光景が続くので、特別見所は無し。
林道は道幅が狭く、所々道の譲り合いになります。木で組まれた歩き易い遊歩道がありますが、途中途中、未舗装の砂利道があります。
大正池
大正池の川岸は砂地になっており、大きく視界が開け、冠雪した山々の展望が見渡せる絶景です。こちらは多くの人達が記念撮影に勤しんでいました。大正池から見える景色の素晴らしさは、写真から伝わると思います。私が万の言葉を放つより、画の方が雄弁かと思います。
見た目の涼しさとは違いこの日は異常な暑さで、福島で32.3度、長野で31.7度の高気温が観測されました。肌を刺すような暑さではなかったものの、風が殆ど吹かず、ただ気温が高い一日でした。試しに気象庁の統計情報で、1980年の同じ日の松本市を調べました。驚くなかれ、出て来た数字は20.9度。実に11度も差があります。上高地は下界と比較すると10度程気温が低いと聞きますが、下界が30度以上あるなら、こちらも20度以上はある訳で。通りでバスから降りた時に「あれ、全然涼しくないぞ」と真っ先に感じた訳です。道中、だらだらと汗を流すと言うより、じわじわ体表から放出しているような感じでした。
気候変動の最高機関とされるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は今世紀末の気温上昇を1.5度に抑えるとか言ってますが、それは人が住まない(住めない)地域を含めた地球全土を指している訳で。日本で言えば40年以上前と比較すると、年間を通して5度~10度は上昇している筈です。これでもまだ「気候変動は自然現象」とか言っている阿保どもが湧くほどいるので困ります。気候変動と言う名の「人為による地球破壊活動」を止めたければ、1.5度とか曖昧な目標ではなく、自然破壊と人口増加を止めれば良いだけの話です。
話を戻して・・・上着を脱ぎたかったけれど、あともう少しと我慢して、大正池ホテルまでは歩みを進めました。4月でこの暑さなら、これから先の季節は自分には無理だと感じました。夏になると深緑の季節と言う事で、お勧めになっておりますが。代謝が良いのか私は非常に暑がりなので、夏は避けたいと思います。
行きの車窓から横目でちらりと見た例のホテルまで登って行き、そこの腰掛けで少し休止しました。ここで初めてまともに水分補給。ここに来るまで暑さを我慢しましたが、いよいよ限界。上着を脱いで長袖Tシャツ一枚に。半袖一枚だけでも良かったと思います。この日は400mlのナルゲンを一本しか携行していなかったので、二本持ってくるべきでした。
大正池ホテルは、次回泊まりで再訪した時の宿候補です。中に入ってホテルの人に確認したところ、ネットでしか予約受付をしていないようで、空室が出ても連絡は出来ないとのことでした。
河童橋までの復路
観光案内によると河童橋から大正池までは70分要するみたいですが、早歩きを駆使したおかげで10分は短縮出来たと思います。小休止の後、気合を入れて出立しました。前述したように、ホワイトバランスの設定不良で道中撮影した写真が青白い画像となってしまったので、二度手間ですが撮りなおしつつ復路を歩きました。
暑さ嫌いの私ですが、透き通る川の水による視覚的な涼しさがせめてもの救いでした。奇麗な川とか海は、何時間見ていても飽きません。時間さえあればゆっくり腰掛けるか、寝そべってひたすら水の流れを見ていたい気持ちです。
予備カメラとして持ち込んだPENTAX KFを使い、動画を撮影しましたが・・・私が契約しているサーバーのアップロードの最大容量が32MBなのと、動画の画質があまり良くないのもあって添付は諦めました。動画でも自然の迫力が伝えられたらと思うのですが。
素人の私が撮っても絵葉書の様に美しい光景。勘違いしている人達が多いですが、写真が美しく撮れるのは撮影者の腕や機材の性能ではなく、被写体自体が美しいからです。写真は自分が生で目にした光景を十全に伝える事は出来ません。ある程度減衰します。
写真とは記憶の保存であって、芸術とは違います。自分が見た光景を記録して見返したり、他者に自身の感動を伝える媒体です。それ以上でも以下でもありません。撮影を生業にしている人達でも、大した写真を撮れない事があるのは、その辺の思い違いや傲慢さが起因しています。自然美に勝る芸術は存在し得ないと思います。
川の水深、流れの緩急、光の差し込み具合。様々な条件によって川の表情が複雑に変化するのが分かると思います。水面の波打ち具合でも、川の流れが分かると思います。頑張って歩いたので、復路も往路と同じく10分は時間を短縮出来たと思います。いよいよ折り返しです。
明神方面
次は後半戦です。河童橋まで戻ったところで一旦落ち着いて少し水分補給。食事を摂ろうかと迷いましたが、飲食店は列が並んでおり、時間が惜しいので早々に諦めました。河童橋のすぐ近くに短い橋、清水橋があります。ここは川底に苔が繁茂しているようで、日光に照らされて明るい緑色に煌めいて奇麗でした。ここから緩やかな上り坂となり、明神まで繋がっています。この付近から動物園のような獣臭が漂い始めました。訝しんでいると、すぐにその理由が判明しました。この辺りから野生の猿を数多く見かけるようになったからです。餌付けされてる訳ではありませんが、観光客で人間に慣れたのか、逃げもせずこちらに接近もせず、大人しく仲間で群れていました。
変な歩き方をしていたせいか、この時から大分疲れが出始めました。体力と脚力には自信がありますが、今回は強行軍だけでなく履物も悪かったようです。私が使っているBATESのブーツは長時間履いていると足首回りが痛くなり、靴の中で足が滑るので歩きにくく余計に疲れます。ここに来る前にまともな靴を調達しておくべきでした。候補としてKEEN(キーン)のシューズを考えています。メレルなどは軍人にも使われており、民間向けの商品でも軍用や酷使に耐える良品があります。
明神橋に着いた所でまた記念撮影。通り過ぎて行った男が「くそじじい、写真を撮るまで待てばいいのに」と悪態をついていました。撮影しようとしたところ、視界に他の人が入ってきたのでしょう。これだけ人が大勢いるならお互い様なのに。そのご老人がいなくなるまで大人しく待てばいいだろ阿保、と思います。何処にでも感じが悪い奴っていますね。
明神橋でも飲食の機会がありましたが、待ち時間を嫌ってここでも休憩を取らず、すぐに立ち去りました。
岳沢湿原
明神橋を渡ってしばらく歩くと大正池方面の林道でもあった、木製の遊歩道が見えてきました。ここを通過するとやや薄暗い場所に辿り着きます。この辺りが岳沢湿原(だけさわしつげん)の入り口です。ここは明暗の対比がたいへん素晴らしい場所です。
ここは梓川ではなく、別の場所から流れて来た水が沢を作っています。何と言うか日本にいる感じがせず、剣と魔法の幻想世界に迷い込んだような印象を持ちました。ゲームとか映画でしか見た事がないような世界が広がっていて、静かに感動しました。岳沢湿原は水草か苔なのか分かりませんが、あちこち水底が暗くなっています。上高地はそこまで広い土地ではありませんが、少し歩いただけでがらっと景色が変わるので、本当に驚きです。
神秘的で美麗な湿原を後にし、河童橋の方まで引き返しました。明神方面の散策も、片道10分は短縮したと思います。肉体への反動も凄かったですが・・・道中、恐らく日本人ではなくアジア系の外国人ですが、アイスを食べ歩きしている姿を見かけました。他には河童橋で飲料を立ち飲みしている人とか。中には日本人もいたかもしれません。礼儀作法がなっていない。出た塵をその後どうするのだろう?
最近ではオーバーツーリズムなる言葉が流行っていますが、これもグローバル化の弊害ですね。最近だと富士山が見えるコンビニエンスストアとか問題になっていました。所謂インバウンド需要によって、宿泊代等が高騰。コロナ禍で宿泊業界の倒産があったせいもあると思いますが。日本人が利用したくても利用出来ないとか。私は利益優先で外国人を呼び込むより、日本の自然や伝統文化は日本人にこそ知ってもらいたいと思います。ハラルの表示とか、媚びを売る意味が分かりません。
オーバーツーリズムは海外でも立ち入り禁止の場所に観光客が入ったり、色々問題になっています。このような世相に応えてか、スペインではベネシアフレニアのような風刺映画が撮られています。郷に入っては郷に従え、と言う格言があります。他所から来た人間が、現地の文化を蔑ろにしてはいけません。
お土産を買って、さようなら
河童橋の両岸にお店がいくつかありますが、私は五千尺ホテルがある側の土産物屋で買い物をしました。品揃えは大きく違わないと思いますが、どの店も当たり障りのない「どんな観光地にもあるような品物」を取り揃えています。職場用で焼き菓子を、家用でクラフトビールや食べるラー油を購入しました。生のクラフトビールの販売もしているので、次回訪れた時は是非景気付けに一杯飲みながら散策をしたいものです。
帰りのバスに乗って沢渡駐車場に戻ったのは15時前だったと思います。滞在時間5時間程度で、大正池から明神までの散策と、買い物まで済ませたのは我ながら上出来だと思います。旅の終わりはいつも沁み沁みと。根性の別れではない、いつかまた再会出来ると思いつつも、人生の一部となった場所と言うのは例外無く名残惜しいものです。
最後に
お土産で買ったクラフトビールで乾杯。後日、結構きつい筋肉痛に悩まれました。腰も痛いし。普段使わない筋肉を酷使した反動が来ました。分かっていた事だけれど、上高地は日帰りで行くところじゃない、と痛感しました。写真は結構撮れたけれど、いそいそしたせいでゆっくりと景色を楽しめませんでした。次に行く時は絶対に泊まりで!悠久の時が少しずつ緩慢に自然を形成する様に、慌てず心を落ち着けて、一日たっぷり時間を使って過ごしたいと思います。
天候に恵まれたら是非、天体写真も撮りたいと思います。それまでに、新しいカメラの調達をしようかと思います。候補はSIGMA fpかな。私がこれまで経験した自然の中では、群を抜いて美しい上高地。季節ごとに見所が違い、どの季節に行っても楽しめる場所だと思います。私は過ごし易さから、次は紅葉の季節にでも再訪を予定中です。
記事公開 2024年5月25日
最終更新 2024年7月14日