酒と人生、バー通い 其の六

  • 2023-08-27
  • 2024-02-03
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2023年8月某日

暫く外へ飲みに行っていなかったので、少し気温が下がった日を狙って繰り出しました。あまりの暑さでお盆休みは行く気になりませんでしたが、この日は雨が降ったり止んだり隙がありそうだったので。最近の雨雲レーダーは本当に正確で、時間ごとの雲の流れがはっきり分かるので信用出来ます。いつも交通費を節約する為に30分かけて歩いて行きますが、家を出て目的地に辿り着くまで大雨が降らないのが分かったので、安心して出発しました。

毎日が戦場のような仕事なので運動不足で困っている訳ではありませんが、それでも時間をかけて歩いて行く理由は、季節の変化を肌で感じる為です。仕事でも休日でも、室内に籠っていると世界の変化に気付けません。暑さ寒さも彼岸までと言う言葉がありますが、昨今は気候変動のせいでいつまで経っても暑さが和らぐ気配がありませんが・・・それでも朝晩が少し過ごし易くなったり、つくつく法師の鳴き声を聞くと、もう夏が終わるなと実感します。

普通天気は西から東へ変わっていきますが、この日は東から西へ雨雲が流れて行きました。最近の台風の進路などを見ても、どんどん気候がおかしくなっているなと感じます。田圃の蛙や鈴虫の鳴き声に耳を傾けたり、暮れていく街並みを見やりながら、取り留めのない思考の波に漂っていると、良い時間潰しになります。ふと背後を見ると、暗い雨雲の中に二本の大きな虹が薄っすらと架かっており、得した気分になりました。

いつもバーへ行く前は、必ず食事をしてから向かいます。ちゃんと食事を取らなかった結果悪酔いした事が何度かあり、最近はよく気を遣っています。たまに利用する居酒屋に入り、ビールの中ジョッキを片手に、つくねや薩摩地鶏の刺身に舌鼓を打ちました。締めにご飯ものを頼んだところ予想以上に腹が膨れてしまい、少し落ち着くまで近隣の店舗で休憩しました。居酒屋は仲間と食べ物を分け合いながら酒を飲む場なので、やはり料理の一皿の量が多く、一人で入るべきではないと反省。胃が落ち着いたところで、小雨が降る中馴染みのバーへと歩き始めました。

A店 雨と雷鳴の中

悪天候にも関わらず、A店のカウンターは私が来たところで半分ほど埋まりました。最初の一杯はたいがいカクテルを頼みます。マティーニを初めにいただき、後はいつも通り蒸留酒ばかり頼みました。記録を取りながら飲んでいないので、私の乏しい記憶力を総動員して書きます。

最近よく目にするアイルランドのティーリングが目に留まったので、2018年に瓶詰めされた物をいただきました。アイリッシュはよく果実的と言われるようですが、確かに果物のような爽やかさを感じました。これは若々しさの中にも、しっかりと旨味がありました。若い酒には若いなりの魅力があり、年数物でなくても充分楽しめる商品は、探せばちゃんとあります。

有名な銘柄なのに一度も飲んだことが無かったグレンフィディック。90年代のグレンフィディック18年を出してくれたので、ハーフで注文。香りが華やかで、軽くて飲み易いスコッチでした。グレンフィディックの特徴としては「癖が無い・爽やか・さっぱり」と言うのが一般的な評価らしいですが、正にその通りで、誰にでも勧められそうな優等生と言う感じでした。90年代と言うと今より原酒に余裕があったと思いますが、これはそこまで熟成感が無かったと思います。90年代のスコッチなら私のお勧めは、タリスカー10年の地図ラベルとボウモア12年の鴎ラベルを挙げたいと思います。

次はメスカルのモンテロボス・エスパディン。最近になって日本に入って来たみたいです。ロボス=lobosとはスペイン語で狼(複数形)の事です。ロボと聞くと、ノーカントリーと言う映画を思い出します。これはメスカルらしく非常に野趣溢れる味わいでした。以前飲んだデル・マゲイやアハルともまた違ったメスカル。アードベッグ等のピートモルトにも似た強い香ばしさがあり、人によっては薬品っぽさやゴムの臭いにも感じるかもしれません。エンピリカルにも似ていると思いました。メスカルでも鶏肉とか兎を焼く時の蒸気を取り込んだのがペチューガと言うらしいです。メスカルは原始的な製法で作られる酒で、恐らく昔は料理を作る時の火を無駄にしない為に、肉を焼く時に一緒に酒も作ったのでしょう。そんな内容の事をA店主が言っていた気がします。確かにこのモンテロボスも、焼いたベーコンのような薫香や、肉のような不思議な味わいがありました。同じアガベを使うテキーラとは全く趣の異なる酒で、癖があって少し飲み疲れます。たまに飲むと美味しいでしょう。

最後に頼んだのは、沖縄は瑞穂酒造株式会社ONERUM第7段。IRIOMOTE ISLAND RUMと表記されています。その名の通り、可愛らしい西表山猫の絵があしらってあります。いつも思うのだけれど、日本人なら日本人らしく誇りを持って、日本語をきっちり使って欲しい。カタカナとかアルファベット表記に逃げないで欲しい。

さて、この沖縄のラムはアグリコールラムと呼ばれる部類に入ります。通常多くのラムは製糖の際に出る副産物の糖蜜(廃蜜)が多く利用されています。これはこれで勿体無い精神と言うか、何でも無駄にしないで利用しているので良い事だとは思います。ブランデーならマールやグラッパが近いでしょうか。それに対してアグリコールラムはさとうきびを絞った汁、さとうきびジュースを100%使用したラムになります。個人的には通常のラムとアグリコールラムの絶対的な違いが分かりません。製法にあまり拘らず、自分が飲んで美味いと思う物を信じれば良いと思います。これはホワイトラムになるので樽の香りが無く、スピリッツ自体の美味さが正直に伝わって来ます。甘さの中にも締りの良い香辛料のような刺激があり、よく出来た酒だと思いました。

A店で印象に残ったのはティーリングとモンテロボス。今後これらは購入して自宅でしっかり味わいたいと思います。雨雲レーダーの予想通り、ラムを飲み終えたところで雨雲が去ったので店を出ました。

B店 雨後の静けさの中

続いてB店を訪れました。ほぼ雨が上がったかに見えた夜の街中。人通りが少ない住宅街にひっそりと佇んでいるB店。いつもぼんやりと薄暗い照明を落とした玄関の前に立つと、落ち着いた雰囲気に安心感を覚えます。扉を潜る瞬間に来る形容し難い感情が、いつも楽しみです。

私が入った時はまだ客が少なく、ほぼ貸し切り状態でした。夏と言えばモヒート。最初の一杯にこれは外せません。面白いもので隣の客が何か酒を頼むとそれが気になって同じ物や、同じ系統の酒を頼むと言う光景がしばしば見られます。隣に座った私と同年代であろう客人も、モヒートを頼んでいました。バーに入るとよく赤の他人同士で自然と会話が始まります。歩いて来たのかとか、酒に詳しいですねとか、当たり障りのない会話がよく交わされます。店主を間に挟んで隣の会話に入ったりとか。馴れ馴れしさとはまた別の雰囲気があり、これはこれで楽しいものです。同好の士と言う事で、親近感から心の壁が薄くなるのかもしれません。稀に酒の知識が全くない人もいますが(それが悪いと言う意味ではなく)、老舗のバーはたいがいそれなりの知識を持った人達が自然と集まります。失礼な話ですが、若くて一見軽そうなお兄ちゃん達が、意外と酒の事や一般常識を知っていたりするので、やはり店が客を選ぶのだと思いました。軽薄な店には軽薄な人間しか来ない。

二杯目は前から気になっていたバーボンのミクターズを注文。特級表示の物とUS☆1をそれぞれハーフで。このミクターズに関しては殆ど覚えていません。多分、特筆すべき点が無かったのだと思います。何と言うか、ごく普通のバーボンで印象に残らなかったです。自分で買う前に試して良かった。

B店主はジンにはあまり拘りが無く、特にクラフトジンは紛い物が多いと考えているようです。確かにウィスキーなどと比べれば簡単に作ることが出来てすぐに出せるジンは、無駄に高い物が多いと思います。ウィスキーを出すまでの繋ぎ、銭稼ぎのために作っている所もあるのかもしれません。しかし、中にはニューメイクからスピリッツを作る拘りの蒸留所はあるし、新興のウィスキーでもやはり不思議と高い値を付ける所はあるので、ジンだけを悪者にしても仕方ないかと思います。

B店で飲んだ中で当たりだったのは、次に飲んだワイルドターキーのシェリーシグネイチャーと、クエルボのテキーラ。ワイルドターキーは10年熟成で、それからシェリー樽で追熟した逸品のようです。木の良い香りがしっかりと伝わって来て、そこに品の良いシェリーが追っかけてきます。個人的見解ですが、シェリー樽はたまにえぐみとか「あまり心地良くない感じの濃さ」が出てくる事がありますが、これは良い具合に仕上がっていました。B店主によると、バーボンは樽の材質で酒の出来不出来が変わるそうです。当然と言えば当然ですが。やはり樹齢が高い材木の方が、スピリッツに美味さが抽出されるそうです。建材でも耐久年数は樹齢の数と同じと聞きます。樹齢200年の木から作られた建材は200年持つと言うことです。

クエルボのテキーラはローリングストーンズが絡んだ商品みたいですが、酒と音楽の相性が良いのか、よくバンド名が入った商品を見かけたり、音楽畑の人達が酒作りに関わっていることがあります。モーターヘッドとかラムシュタインとか。バンドが持つ知名度を利用する意図も当然あるでしょうが。このテキーラはエクストラアネホらしく、色も味わいも濃く熟成感が高い代物でした。テキーラにある青臭さを強く上書きするかのように、深い味わいがあって上質なスコッチのようでした。久しぶりに本当に美味いテキーラが飲めました。

最近仕事のストレスが強く、依存はいけないと思いつつも酒に頼る毎日。久しぶりに良い息抜きが出来ました。計算通り、帰路の天候は安定していました。途中コンビニエンスストアに立ち寄り、缶コーヒーを購入。酒の後のコーヒーを楽しみながら、また30分かけて歩いて帰りました。人生はほんの一瞬で、次の瞬間には死んでいるかもしれない。だから後悔の無いように毎日を全力で生きる。私はきっと死ぬまで酒は止めないでしょう。何でも良いので、全力で楽しめる趣味があるのは良い事ですね。

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